東京医科大学 微生物学分野 - Department of Microbiology, Tokyo Medical University -

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論文要旨

柴田岳彦准教授と修士課程大学院生 石川紗妃さんの論文が Journal of Infectious Diseases に掲載されました。

題名

Respiratory syncytial virus–mediated Gas6/Axl axis induces hyporesponsive macrophages to promote pneumococcal proliferation in the nasopharynx

邦題

RSウイルス感染によるGas6/Axlの活性化がマクロファージの抗菌機能を抑制し、鼻咽頭における肺炎球菌増殖を促進する

著者

東京医科大学微生物学分野 石川紗妃、柴田岳彦

掲載ジャーナル

The Journal of Infectious Diseases

DOI:

doi: 10.1093/infdis/jiag004

論文要旨

 RSウイルス(respiratory syncytial virus:RSV)は、乳幼児の細気管支炎や肺炎の主要な原因であり、高齢者においても重症呼吸器感染症の重要な病原体として知られている。臨床現場では、RSV感染を契機として肺炎球菌などの細菌感染が重症化することが知られているが、その分子機構は十分に解明されていなかった。
 本研究では、RSV感染が鼻咽頭に定着している肺炎球菌の増殖を促進する仕組みを解析した。その結果、RSV感染により鼻粘膜の漿液細胞からGas6(growth arrest-specific 6)というタンパク質が産生され、その受容体Axlを介して免疫細胞であるマクロファージに作用することが明らかとなった。通常、マクロファージは細菌を貪食・排除する役割を担うが、Gas6/Axlが活性化すると抗菌能の低い状態に変化し、肺炎球菌が増殖しやすくなることが示された。
 さらに、Gas6/Axl経路を阻害することで、RSV感染後の肺炎球菌増殖が抑制されることを実験的に示した本研究はRSV感染後に新たな細菌感染が成立する機序 (Shibata et al. J Clin Invest 2020) だけでなく、もともと鼻咽頭に定着していた肺炎球菌の増殖が感染症重症化に寄与する可能性を示した点に特徴がある。

本論文の与えるインパクトや将来の見通し

 本研究により、RSV感染が「RSV感染 → Gas6/Axl活性化 → マクロファージ機能低下 → 定着肺炎球菌増殖」という新たな病態形成機構を誘導することが明らかとなった。この成果は、ウイルス感染後に起こる細菌性肺炎の発症機序の理解を深めるとともに、Gas6/Axl経路を標的とした新規治療戦略の可能性を示すものである。
 また、肺炎球菌ワクチンは重症肺炎の予防に大きく貢献している一方で、ワクチン非対象血清型の増加が課題となっている。本研究は、RSV感染そのものを予防することが細菌性肺炎の抑制にも寄与する可能性を示しており、RSVワクチンの重要性を免疫学的観点から裏付ける知見となる。
 今後、ウイルスと細菌が相互に影響し合う感染症病態の理解をさらに深化させることで、乳幼児や高齢者における重症肺炎の新たな予防・治療法の開発につながることが期待される。