東京医科大学 微生物学分野 - Department of Microbiology, Tokyo Medical University -

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論文要旨

犬飼達也助教と修士課程大学院生 (当時)の渡邊陸人さんの論文が Scientific Reports に掲載されました。

題名

Fungus-Targeted Nanomicelles Enable MicroRNA Delivery for Suppression of Virulence in Aspergillus fumigatus as a Novel Antifungal Approach

邦題

新しい抗真菌アプローチとして、真菌標的ナノミセルは Aspergillus fumigatus の病原性を抑制するマイクロRNAの送達を可能にする

著者

東京医科大学微生物学分野 犬飼達也

掲載ジャーナル

Scientific Reports. 2025 May 19;15(1):17398.
DOI:  doi: 10.1038/s41598-025-02742-0.

論文要旨

 アスペルギルス症の原因菌である Aspergillus fumigatus は、近年アゾール系抗真菌薬に対する耐性を獲得している。抗真菌薬は主に3クラスしかなく、新規治療法の開発が重要である。我々は、革新的な治療アプローチとして、真菌にマイクロRNA(miRNA)を導入することにより、病原性因子の発現を制御することを目的とした。我々の仮説を検証するために、A. fumigatus の病原性因子である1,8-ジヒドロキシナフタレン(DHN)-メラニンの合成に関与する alb1 を標的とするmiRNA mimicを選抜し、真菌のプロトプラストに導入したところ、alb1 の発現量が2倍減少した。次に、3×HAタグ付きAlb1タンパク質(Alb1-HAp)発現株を作製し、抗HA抗体を用いたウェスタンブロッティングにより翻訳制御を確認したところ、miRNA導入後のAlb1-HApのタンパク質量は3分の1に減少した。さらに、miRNA導入後のメラニンの減少は、過酸化水素による酸化ストレス抵抗性の解除と好中球による排除が促進した。さらに、真菌を標的としたドラッグデリバリーシステムにmiRNAを搭載し利用することで、in vitro無傷の真菌細胞にmiRNAを導入できる可能性を示した。これらの結果は、miRNAが真菌の標的病原因子を制御する可能性を示しており、新規治療法の開発につながるものである。

本論文の与えるインパクトや将来の見通し

 本研究では、菌体にmiRNAを導入することによって、菌側の病原因子の発現制御が可能であることを明らかとしました。さらに、これまで、真菌が持つ細胞壁が障壁となりmiRNAの菌体内への導入を困難にさせていた問題点を、真菌指向性DDSを使用することによって解決できる可能性を示しました。以上の結果は、真菌症治療の新たな治療戦略の一つの選択肢として、核酸創薬と核酸を用いた治療法の開発が期待されます。