東京医科大学 微生物学分野 - Department of Microbiology, Tokyo Medical University -

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論文要旨

柴田岳彦准教授と本学学部生 (当時)の大脇くん、近藤くんの論文が Front in Cellular and Infection Microbiology に掲載されました。

題名

Gas6/Axl-mediated macrophage hyporesponsiveness drives severe pulmonary mucormycosis in diabetic mice

邦題

糖尿病に伴い誘導されるGas6/Axlシグナルは、マクロファージの抗真菌機能を抑制し、ムーコル症を引き起こす

著者

東京医科大学微生物学分野: 近藤庄太郎、大脇恵人、犬飼達也、木下城太郎、中村茂樹、柴田岳彦
奈良県立医科大学免疫学講座: 濱崎玄人、伊藤利洋

掲載ジャーナル

Frontiers in Cellular and Infection Microbiology

DOI:

doi: 10.3389/fcimb.2026.1939483

論文要旨

 ムーコル症は、ムーコル目真菌によって引き起こされる致死率の高い真菌感染症であり、糖尿病は主要な危険因子の一つである。しかし、なぜ糖尿病でムーコル症が重症化しやすいのか、その分子機構は十分に明らかにされていなかった。
 本研究では、糖尿病において肺の抗真菌防御が低下する仕組みを解析した。その結果、糖尿病マウスでは、真菌感染前から肺および血中のGas6 (growth arrest-specific protein 6) が増加していることを明らかにした。増加したGas6は、その受容体であるAxlを介して肺胞マクロファージの抗真菌応答を抑制していた。実際に、糖尿病マウスでは Cunninghamella bertholletiae 感染後のCXCL1およびCXCL2の産生と好中球動員が低下し、真菌量が増加するとともに生存率が低下した。一方、Axlを遺伝的または薬理学的に阻害すると、マクロファージのケモカイン産生と好中球動員が回復し、真菌の増殖が抑制され、生存率が改善した。さらに、培養した肺胞マクロファージを用いた解析から、Gas6がAxlを介してCXCL1およびCXCL2の産生を直接抑制することが明らかとなった。
 以上の結果から、糖尿病では感染前からGas6/Axl経路が活性化することで肺の自然免疫応答が抑制され、ムーコル症の発症につながることが示された。 

本論文の与えるインパクトや将来の見通し

 本研究により、糖尿病におけるムーコル症への易感染性を、「糖尿病 → Gas6増加 → Axl活性化 → マクロファージ機能低下 → 好中球動員低下 → 真菌排除不全」という新たな病態形成機構として捉えることが可能となった。特に、感染が起こる前から肺に存在するGas6/Axlシグナルが、感染時の抗真菌防御を規定していることを示した点が本研究の特徴である。さらに、Axl阻害薬BGB324によって糖尿病マウスの抗真菌防御と生存率が改善したことから、病原体そのものを標的とする治療に加えて、感染に弱くなった宿主側の免疫機能を回復させる「宿主指向型治療」の可能性が示された。今後、異なる糖尿病モデルやヒトにおけるGas6/Axl経路の役割を検証することで、糖尿病患者における重症真菌感染症の新たな予防・治療法の開発につながることが期待される。