論文要旨
客員研究員の花田豪郎先生、生方公子先生、客員教授の岩田 敏先生、高田美佐子助手の論文がEuropean Journal of Clinical Microbiology & Infectious Diseasesに掲載されました。
題名
Clinical Manifestations and Biomarkers to Predict Mortality Risk in Adults with Invasive Streptococcus dysgalactiae subsp. equisimilis Infections
邦題
侵襲性 Streptococcus dysgalactiae subsp. equisimilis 感染症の成人における死亡リスクを予測する臨床所見とバイオマーカー
著者
東京医科大学微生物学分野 客員研究員: 花田豪郎 (虎の門病院呼吸器内科)、客員研究員: 生方公子、客員教授: 岩田敏、助手: 高田美佐子
掲載ジャーナル
European Journal of Clinical Microbiology & Infectious Diseases
論文要旨
【目的】 先進諸国では侵襲性 Streptococcus dysgalactiae subsp. equisimilis (iSDSE) 感染症の発生率が増加しているが,この感染症における死亡の危険因子に関する研究は極めて乏しい。当該論文においては,iSDSE 感染症例の成人における死亡の危険因子と予後因子を明らかにすることを目的とした。
【方法】 iSDSE 感染症の成人を対象とした全国規模の多施設コホート研究を実施し,宿主側因子,疾患の重症度,バイオマーカー,抗生物質療法,そして菌側の病原因子が発症例の28 日死亡率に及ぼす影響を統計学的にかつ多面的に解析した。
【結果】 iSDSE発症588 名における死亡率は 10.4%,60 歳以上の患者で有意に増加していた。症例のほとんど (97.4%) は基礎疾患を有していた。入院時に重症と判断された症例の死亡率 は70.4%,軽症から中等症の死亡率 4.3%に比して有意に高かった(p < 0.001) 。多変量解析により特定された死亡の危険因子は,年齢が60 歳以上(ハザード比 [HR],3.4,95% 信頼区間 [CI],1.0~11.3,p = 0.042),重症度(HR,15.0,95% CI 7.7~29.2,p < 0.001),フォーカス不明の菌血症(HR,20.5,95% CI 2.8~152.3,p = 0.003),血清クレアチニン ≥ 2.0 mg/dL(HR,2.2,95% CI 1.2~4.0,p = 0.010),血清クレアチンキナーゼ ≥ 300 IU/L(HR,2.1,95% CI 1.1~3.8,p = 0.019)であった。治療抗菌薬や病原因子のMタンパクをコードする遺伝子の分子疫学解析ではstG6792が多くを占めたが予後不良とは関連していなかった。
【結論】入院時の臨床症状およびバイオマーカーの評価は,侵襲性SDSE感染症の予後を予測する上で極めて重要であると結論された。
当該論文の臨床ならびに疫学研究へ与えるインパクト
iSDSE感染症は,急速に高齢化が進行している先進諸国において最も注目されているレンサ球菌感染症である。発症例の大多数は様々な基礎疾患を有していることが特徴で,菌側の因子よりも宿主側因子が予後に大きく影響することを明らかにしたものである。人口の25%近くが65歳を占めるわが国においては,iSDSEに限らず肺炎球菌やその他の溶血性レンサ球菌感染症においても,宿主側因子を含めた解析が必須であることを示した意義は大きい。