東京医科大学 微生物学分野 - Department of Microbiology, Tokyo Medical University -

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論文要旨

微生物学分野助手の高田美佐子先生の論文が Journal of Infection and Chemotherapy に掲載されました。

題名

Diversity of amino acid substitutions of penicillin-binding proteins in penicillin-non-susceptible and non-vaccine type Streptococcus pneumoniae

邦題

ペニシリン非感受性の非ワクチン型肺炎球菌におけるペニシリン結合蛋白(PBP)のアミノ酸置換の多様性

著者

東京医科大学微生物学分野 高田美佐子

掲載ジャーナル

Journal of Infection and Chemotherapy. 2022 Nov;28(11):1523-1530.

論文要旨

わが国では,小児用肺炎球菌結合型ワクチン(PCV)の導入により,ペニシリン(PEN)非感受性肺炎球菌によるワクチン型(VT)肺炎球菌感染症は減少した.しかし,非ワクチン型(NVT)の中にもPEN非感受性株が徐々に出現している.本研究では,NVT株におけるPEN耐性化にかかわる pbp 遺伝子変異とPEN結合蛋白(PBP)の特性について検討することを目的とした. IPD症例から分離されたNVT 41株を無作為に抽出した.PBP1A,PBP2X,PBP2Bをコードする pbp 遺伝子の塩基配列を解析し,β-lactam耐性に寄与するアミノ酸(AA)置換を同定した.また,耐性株のPBPの3次元構造をホモロジーモデリングによりR6株(標準株)の構造と比較した. PEN非感受性NVT株では,PBP1AとPBP2Xにおいて,保存されたAAモチーフ(STMK)のThrからAlaまたはSerへの置換が重要であった.PBP2Bでは,SSNモチーフに隣接するThrからAlaへの置換,およびGluからGlyへの置換が重要であった.立体構造解析結果から,PBPの酵素活性ポケットの周辺にアミノ酸置換が集積していることがわかった.PBPのドメイン全体で検出された多くのAA置換は,AAモチーフ内またはAAモチーフに隣接するAA置換を除いて,耐性とは関連がなかった.抗菌薬とワクチンの両方からの圧力により,多様なAA置換を有するNVTが徐々に増加した.また,Clonal Complex や Sequence Type から,ほぼすべてのNVTが海外に由来し,繰り返し変異を経て日本に伝播していることが明らかとなった.

本論文の与えるインパクトや将来の見通し

NVT分離株の pbp 遺伝子変異による異常PBPを持つペニシリン非感受性肺炎球菌の出現は今後,治療上の問題となることが予想されるが,β-ラクタム耐性機構に関する研究はほとんどない.本研究によって,わが国で増加しつつあるNVTの多くは海外から持ち込まれた後,ワクチンの普及や抗菌薬使用の影響下においても肺炎球菌は巧みな遺伝子変異を繰り返しながら環境に適応し生き延びてきていることを明らかにした.これらに対応するためには,肺炎球菌感染症患者に用いる抗菌薬に関するグローバルなコンセンサスの確立と,それぞれの国における国家規模の継続的分子疫学サーベイランスが必要であると考える.