研究支援プログラム
微生物学分野助手の高田美佐子先生の研究が公益社団法人 日本化学療法学会 創立70周年記念研究支援プログラム助成金に採択されました。
研究テーマ
肺炎球菌ワクチン非含有の莢膜型(NVT)株にみいだされた遺伝子組換えによる耐性菌出現のメカニズム
研究代表者
高田 美佐子
研究の目的と内容
わが国における小児への肺炎球菌ワクチン(PCVs)定期接種化は, PCVsタイプの肺炎球菌による市中型肺炎や中耳炎,侵襲性肺炎球菌感染症(IPD)を激減させた。成人においてもPCVsタイプの肺炎球菌によるIPDは減少傾向がみられ,小児へのワクチン接種にともなう間接効果(herd immunity)がもたらされている。その反面,ワクチン非含有莢膜型(NVT)株が次第に増加しており,加えてそれらの中に耐性菌(PRSP)が出現しつつある。NVTにみいだされる PRSPは,治療上の問題となり得る可能性を秘めている。特に,髄膜炎例では抗菌薬治療開始のタイミングとともに,薬物移行濃度の低さからPRSPが起炎菌であるとその予後に大きく影響することが知られている。
私どもは,このような新たな莢膜型株にPRSPが出現するメカニズムに着目してきた。今までの研究では,本菌のゲノム上の莢膜合成遺伝子群(cps locus)とその両側に位置するβ-ラクタム系薬の耐性化に関わる細胞壁合成酵素(PBP1AとPBP2X)をコードする遺伝子の位置関係が重要であることを見いだした。この領域は約30kb (pbp2x ± cps locus ± pbp1a 遺伝子)の長さで,20~25kb長の cps locusが異なる莢膜型のPRSPの cps locusと組換えを起こしていることを見いだした。このような事象(event)は,”capsular switching”と呼ばれる。その要因として,抗菌薬やワクチンの選択圧が考えられ,選択圧を受けた肺炎球菌は容易に溶菌し,DNAを漏出させて遺伝子組換えを起こし,生き延びると推測される。この現象は肺炎球菌の環境適応力,すなわちenvironmental adaptabilityシステムであり,本菌のユニークな特徴である。
なぜこのようなダイナミックな遺伝子組換えが生じるのかについての詳細は,依然として不明な部分も多い。わが国おいても次世代型PCVsの小児・成人への導入が期待される現在,NVTにおけるPRSP出現のメカニズムを遺伝子解析から明らかにすることは,変貌する肺炎球菌感染症の予防と対策に益することが期待される。
取得助成金
公益社団法人 日本化学療法学会 創立70周年記念研究支援プログラム助成金